『POWERS OF TWO 二人で一人の天才』
二人で一人の天才
https://gyazo.com/9e5f209c18c24339bb2b003640b25b47
目次
イントロダクション
第1部 邂逅
1. 「君を見ていると、チャーリー・マンガーを思い出す」――組み合わせと磁石
2. 双子より似ている双子――類似と相違
3. 2匹の子グマのように――2人のあいだに電気が走る
第2部 融合
4. プレゼンス→信用→信頼――融合の3段階
5. 信じる心――絆を深める最終段階
6. 「みんな消えちまえ!」――「私たち」の心理学
7. 「どんな力も私たちを分かつことはできない」――創造的な結婚
第3部 弁証
8. スポットライトと影――主演俳優と監督
9. ボケとツッコミ――液体と容器
10. ひらめきと努力――夢想家と実務家
11. 役割の交代――生成と共鳴
12. 「すべては対照的だ」――弁証の心理学
13. 心のなかの「他人」――創造的思考の対話
第4部 距離
14. 創造的な修道僧と結合体双生児――究極の距離
15. 「いつも相手を驚かせようとしていた」――多様な距離感
16. 「ないものを求める」――距離の欲情
第5部 絶頂
17. 最も親密な敵――創造的な企み
18. ルーク・スカイウォーカーとハン・ソロ――クリエイティブ・ペアとコーペティション
19. 「誰だって力を手に入れたいさ」――明確な力と流動的な力
20. 「オーヴとやり合うのが好きなんだ」――対立
21. アルファとベータ――ヒッチコックのパラドクス
22. 「マッカートニー・レノンはどうかな?」――権力のダンス
第6部 中断
23. 「こんな状況はありえない」――揺さぶり
24. 成功のパラドクス――くさび
25. 修復不能――レノン・マッカートニーの別離
26. 終わりのないゲーム――レノン・マッカートニーは決裂したのか?
エピローグ バートン・フィンク、スタンダード・ホテルにて
謝辞、訳者あとがき、参考文献、原注、人物索引
----
イントロダクション
クリエイティブ・ペアの6つのステージ
邂逅 ペアを組むことになる相手との最初の出会い。2人のあいだに火花が走り化学反応が生まれる。意外な共通点や違いが明らかになる。
融合 お互いに関心をもち刺激し合う関係を超えて、本物のペアになっていく。それぞれの自我の一部を手放し、心理学で言う「アイデンティティの結合」が起きる。
弁証 創造の作業のなかで2人の役割が発展する。最適な位置関係が決まり、創造的プロセスの目指す方向が定まる。
距離 関係を長続きさせるためには、2人の距離をさらに縮めなければならない。一方で自分達にとって最適な距離を見定め、パートナーシップの刺激の源でありつづけられるように、それぞれが独自のアイデアや経験を育む空間を十分に確保する。
絶頂 創造は絶頂期に入り、2人が競争と協働を繰り返して無限の力を発揮する。その一方で、ペアの力学と対立の可能性が浮き彫りになる。
中断 2人を突き動かしてきた同じ情熱が2人を分かち、幕切れを迎える。ただし、2人のあいだの火花は消えてはいない。たいていは周囲の状況に決定的な変化が起こり、バランスが失われるだけだ。物理的にも精神的にも2人は結びついたままで、クリエイティブ・ペアは永遠に終わらない。
第1部 邂逅
問題提起
クリエイティブな関係はどのような環境で育まれるのだろうか。そして、クリエイティブな関係に発展する可能性が最も高いのは、どのような組みあわせの2人なのだろうか?
これらの疑問に答えるために、さまざまなペアの出会いに注目すると、最初の大きなテーマが浮かび上がる。すなわち、クリエイティブな人間関係は、親近感と違和感が絶妙なバランスで結びついているのだ。そのバランスを支えるのは2人が補い合う結びつき方だ。2人の人間が支え合うだけでなく、驚きを与え、ときには相手をいらだたせながら、1人では達成できなかった大胆な成果をもたらす。そうした補完的な結びつきがペアの原点となる。
1. 「君を見ていると、チャーリー・マンガーを思い出す」――組み合わせと磁石
弱い繋がり
2011年にフェイスブックがミラノ大学と共同で7億2100万人のユーザーの関係を調べたところ、任意の2人は平均4.74人でつながっていることが分かった。ジョン・グエアの戯曲『私に近い6人の他人』で有名になった「6次の隔たり」によれば、知り合いの知り合いをたどると、6人目で世界中の人とつながるという。しかし、世界はもっとせまいようだ。
つながりを結んでいくことは、いつも簡単にできるとは限らない。世の中には、外から入ることが極めて難しい集団もある。結びつきを滑らかに広げるカギとなるのは、心理学者のカレン・フィンガーマンの言う「間接的な他人」だ。あなたが属する小さなグループの外には、あなたとつながりたいと思いつつ、適度な距離感を保ち、ほかのグループの人とつながる可能性を残している人がいる。社会学者のマーク・グラノヴェッターがマサチューセッツ州ニュートンで専門職の就職事情をサンプル調査したところ、人脈で仕事を決めたという人は新聞を優に超えていた。その人脈のうち83%以上は、ときどき、あるいはたまに接触があるだけの関係が、仕事につながっていた。 磁石の場
2. 双子より似ている双子――類似と相違
類似点と相違点
クリエイティブ・ペアになる2人は、不思議なくらい似ていることが多い。そのような相手に出会うと、類似点が心に強く刻み込まれる。
類似点は人間関係のバランスを保ち、相違点は2人を前進させる。
>全米経済研究所(NBER)はあるレポートで、ベンチャーキャピタリストがパートナーを選ぶ2つの理由に注目した。ひとつは能力。もうひとつは、民族的なバックグラウンドや同じ職場で働いた経験があるなどの類似点だ。その結果、能力が似ていることは投資のパフォーマンスを向上させるが、後者の類似点は「投資が成功する確率を著しく下げる」ことが分かった。問題は、似ていることではない。似ていることは、人間関係の基礎としては好ましい。しかし、ある状況についてメンバーが同じような考え方ばかりしていると、グループの忠誠と献身が個人の自立した思考より優先されるようになり、難しい局面で正しい評価ができなくなる。
人生には、相違点より類似点を重視するほうがうまくいく場面もあるだろう。しかしクリエイティブな作業は、幅広いやり取りと、知らない者同士の結びつきに大きな影響を受ける。私人のウィリアム・ブレイクは「天国と地獄の結婚」で、「対立がなければ進歩はない」と書いている。
アーサー・ケストラーは著書『創造活動の理論』(ラティス)で、このようにして生まれる新しい関係とそのバランスを「バイソシエーション(双連性)」と呼んだ。「それまで関連性がなかった能力や回路や思考が突然、結合する」のだ。これが創造的な飛躍の本質であり、イノベーションの歴史において、必要な知識と新しい視点をもつ異端児が決定的な役割を演じる理由のひとつでもある。ウェスタン・ユニオンで電話事業の礎を築いたのも、IBMでパソコンを開発したのも、本流の社員ではなく一匹狼だった。
創造性の進歩に最も適しているのは、経緯と反抗が混じり合った環境だ。たとえば企業内のチームは、明確な使命を共有しているなかに居心地の悪い質問ができる異端児がいると、うまくいきやすい。社会学者のブライアン・ウィッツィとジャレット・スピロはブロードウェアのミュージカル業界のネットワークを研究し、とりわけ高い評価を受ける大ヒット作は、仲間とよそ者が最適な割合で混じった環境から生まれることを発見した。一緒に仕事をした経験がある気心のしれたスタッフに、初対面のスタッフを加えたチームが、傑作を送り出すのだ。 3. 2匹の子グマのように――2人のあいだに電気が走る
第2部 融合
4. プレゼンス→信用→信頼――融合の3段階
1.存在を認める
2.相手を信用する
3.信頼
5. 信じる心――絆を深める最終段階
信仰
ウィリアム・ジェイムズは『宗教経験の諸相』(岩波書店)で、信仰の2つの本質について説明している。1つめは、生きることへの熱意だ。信仰は生気を吹き込み、大胆な思考や行為を駆り立てる。2つめは、安全と愛情と平穏だ。信仰は慰めであり、安心感を高める。 信仰の3つめの本質は、信仰とそれ意外の経験を完全に切り離す感覚だ。「sacred(神聖な)」という言葉の語源とされるギリシャ語の「sanctus」には、「分離する」という意味もある。信頼から信じる気持ちへと進むとき、人は境界線を越えるような感覚を経験する。
6. 「みんな消えちまえ!」――「私たち」の心理学
朝の儀式
共通創出…相手の発話の続きを引き取る
私から私たちへ
7. 「どんな力も私たちを分かつことはできない」――創造的な結婚
第3部 弁証
8. スポットライトと影――主演俳優と監督
どちらが前面に出るかという問題は別にして、そもそもなぜペアの1人だけが注目を集めるのだろうか。主演俳優と監督のパートナーシップでは、観客の側が、感情移入できる相手を一人だけ求めることが多い。出版業界では、共著者の本は単独の著書より一般に売れにくいとされる。読者は(しばしば無意識にだが)著者と直接コミュニケーションを取りたいと思うからだ。著者と読者が1体1でクリエイティブ・ペアを組む、と言ってもいいだろう。ウラジミール・ナボコフの本を夢中で読みながら、作家が自分だけに語りかけているかのように感じる。自分がナボコフの女神となり、腹心の友となる。それに対し、ヴェラ・ナボコフの役割―6年にわたって夫の編集者であり、エージェントであり、リサーチャー兼秘書だった―を意識させられると、最初に感じた親密さが壊されるかもしれない。作家と1対1の関係だったはずが、突然、読者という名の部外者になる。
芸術家と美術商は、主演俳優と監督というパートナーシップの典型的な例だ。芸術家は講義の意味で、表現力のエンジンであり、真の力を秘めた素材に魂を込める。作品をつくるという物理的な作業を担い、自分のアイデンティティと作品を結びつけ、署名を入れる。これは私の作品だ、と。
一方で美辞湯津商は、やはり講義の意味で、芸術家の作品に意味を見出して市場を探し、クライアントを仲介し、作品を宣伝する。作品の販売に必要な環境を整え、ときには芸術家に金銭的な支援をして、所有権の一部や手数料を受け取る。
9. ボケとツッコミ――液体と容器
10. ひらめきと努力――夢想家と実務家
11. 役割の交代――生成と共鳴
12. 「すべては対照的だ」――弁証の心理学
1968年にウォルター・ミシェルは、性格の特徴が多様な状況を通じて一貫しているという概念を、心理学はいまだに証明できずにいると指摘した。私たちの振る舞いは、実際は状況的なきっかけに大きく左右されるとミシェルは考えた。 13. 心のなかの「他人」――創造的思考の対話
心理学者のレフ・ヴィゴツキーは、思考は社会プロセスの4つの段階を得て生まれると提唱した。最初の段階は、外的な対話だ。用事は、断片的な言語を日々育つ心で繋ぎながら、大人に投げては返球を受け取る。このトスの往復が、物事や思考の象徴的な表現を形成する。第2の段階は、声を出してトスを続けながら人形やおもちゃを使って一人語りを始める。 第3の段階用事の言語が内向きの独白になる。目の前の物語を自分に話しながら、思考と合わせるように単語を意識して唇を動かす場面がよく見られるだろう。そして、最後の段階では心理学で言う内語の凝縮だ。この段階になると、言葉を発しなくても、思考を秩序立てて意味を把握できるようになる。
この意味で、思考とは、他人とのやりとりをダウンロードしていると言える。そして、外的なやりとりが相互作用の枠組みを形成するときは、逆向きのプロセスが起きる。重要なのは、人間のあいだ(自分と他人)のやり取りと、人間の内面(自分のなか)のやり取りが、継続的に相互作用をもたらしていることだ。
新集団思考に圧倒される内向型な人々
幼児の思考が発達する過程と同じように、クリエイティブな人生の本質は自分と人のやり取りから始まる。そこから内的な対話に発展していくのだ。
このような支店は、創造性を社会的なプロセスと見なす考え方と、孤独の必要来を強調する考え方を巡る論争を超越できる。『凡才の集団は孤高の天才に勝る』(ダイアモンド社)の著者で心理学者のキース・ソーヤーは文化的な背景に注目し、共同作業を過小評価するのは危険だと主張する。一方、『内向型人間の時代』(講談社)の著者でライターのスーザン・ケインは、内向型の人は「新集団思考」に圧倒されていると指摘する。どのような社会でも3分の1~2分の1は内向型で、創造的な思考をする優秀な人の多くは内向型だ。しかし彼らは、学校や企業で個人の空間を排除され、チームやグループを組むように強制されて、疲れ果てる。 人間は社会的な生き物であるという知識が、これほど被社会的な方法で押しつけられている現実は痛ましい。「創造性は社会的なものだから、全員をグループに所属させよう」という発想は、「花には水が必要だから、湖に突っ込もう」というのと同じだ。
第4部 距離
いきいきとした関係
多くの人と同じように、私は人間関係について「親しいかどうか」の基準で考えてきた。しかし、より重要なのは、二人の空間が生き生きとしているかどうかだ。親密さと信頼を深めつつ、好奇心や意外性をいかに保てるかなのだ。
私は最初からペアの距離に注目していたわけではない。むしろ一連の研究で最も驚かされた発見が、2人の距離という特徴だったのだ。2人を隔てる距離がなければ人間関係は生まれないことに、私は何度もうなずかされた。創造的なペアが結びつき、融合して、弁証法的な関係をもとに役割が決まる。そして、お互いが自由に動ける余地があるからこそ―余地にもかかわらず、ではない―共通の創造的行為に没頭できる。そのとき2人のあいだに何が起きているのだろうか。
主体性は相互関係の種をまき、相互関係が主体性を育てる。
「2人で1つの目的が私たちを駆り立てる。すべての経験を受け入れ、すべての経験の証言者となる。そのために別々の道を進まなければならない時もアルルしかし、それぞれの道で発見したことを、少しでも隠す理由はない。ともにいるとき、私たちは自分の意思をねじ曲げてでも共通の使命を追及する。再び別れる瞬間も、私たちは1つ。その距離が私たちを解放し、私たちが2人のなかに見出す自由が、可能な限り2人の距離を近づける」
14. 創造的な修道僧と結合体双生児――究極の距離
15. 「いつも相手を驚かせようとしていた」――多様な距離感
うまく機能しているペアは決まって、良好な関係のカギは、相手に十分な空間を与えることだと言う。一方で、例愛でもクリエイティブな関係でも、機能不全に陥っているペアが多いという現実がある。その大きな理由は、実際にどのような空間が必要なのか、普段の生活のなかで創造しにくいからだ。本書で紹介するペアには極端な例もある。それでも大半の人が求めるのは、物理的に離れている状況と、できるかぎり近くで密着している状況の、中間あたりの距離だろう。
尊敬は愛より大切
アイデアが生まれる瞬間
重要なアイデアが生まれる瞬間は必ず一緒にいること、定型的な分業をいっさい否定すること、ときどきしか会えなくなった今では贅沢になった無限の忍耐力。
16. 「ないものを求める」――距離の欲情
第5部 絶頂
17. 最も親密な敵――創造的な企み
ライバル関係
お互いに活躍を邪魔しながら、お互いの最高の特徴を引き出し会う。
従来の心理学は、あらかじめ用意された対決の勝者と敗者の関係が研究の対象だった。初対面の2人が試合で対決し、どちらかが価値、どちらかが負ける。それだけだ。しかし近年は、競争がライバル関係に発展することが注目されている。ニューヨーク大のギャビン・キルダフらが「主観的競争」と定義するもので、「競争の客観的状況から独立した」対抗心の強い関係が生まれる。 競争は、相手をたたきのめして自分が欲しいものを手に入れるためのものだ。ライバル関係は、たたきのめしたい相手がいるということだ。そのような敵対意識―退行する情熱―があると、それぞれが自分の欲しいものをより多く手に入れることができる。キルダフの研究によると、ランナーが単なる競争相手ではなく本物のライバルとともに挑むレースでは、5キロで平均25秒タイムが早くなった。
傑出したライバル関係には、偉大なクリエイティブ・ペアと同じ特徴がある。ライバル同士は気質やスタイルにはさまざまな違いがあるが、野心とビジョンは驚くほど似ている。
ライバル関係の例
モリアーティとシャーロック・ホームズ
ハリー・ポッターとヴォルデモート
内なる、黒い犬
マクアダムスよると、「未来の世代の発展と幸福を促進することに関心があって、それに貢献する」「生産的な大人」は、目的を遂行した物語を語りたがる。自分は戦場で敵と対峙し、障害を乗り越えてきたという思いがあるからだ。別の研究によると、心理療法から大きな恩恵を受けた人は、自分の問題を外的な競争と見なそうとする。敵に名前を付けて(ウィンストン・チャーチルは自分の憂鬱を「黒い犬」と呼んだ)、それを倒す物語を作るのだ。心理学者のジョナサン・アドラーいわく「勝利の闘いの物語」だ。 ライバル関係が生み出す3つ
モチベーション
インスピレーション
持続力
ライバルが私たちを戦わせつづける
18. ルーク・スカイウォーカーとハン・ソロ――クリエイティブ・ペアとコーペティション
アンリ・マティスとパブロ・ピカソ
無限のゲーム
哲学者のジェームズ・カースによると、「有限のゲームは勝つことが目的であり、無限のゲームは戦い続けるためにプレーする」。有限のゲームは決められたルールに従い、たった1人が頂点に立つためにほかのプレイヤーを排除していく。それに対し無限のゲームは、双方のプレイヤーが戦いを継続できるように、つねに調整が働く。有限のゲームは個性を抑えて既存の形式を遵守するが、無限のゲームはプレイヤーの特徴に合わせ、個々の違いを際立たせる。 有限のゲームは、たとえるなら形式が決まったディベートで、人工的な制限のある秩序に従う。それに対し、無限のゲームは生きた文法のように、有期的に成長して複雑さを増していく。有限のゲームは競争によって展開するが、無限のゲームは競争と協力が交差するところで動く。
コーペティション(coopetition)
ビジネスの世界では、このような「コーペティション(coopetition)はよくあることだ。フィナンシャル・タイムズ紙はコーペティションを協力(cooperation)と競争(comperirion)の「利点を組みあわせて」「補完し合う領域領域でより大きな市場を創出する」ことと定義する。たとえば、1つの交差点に複数のガソリンスタンドがあると、それぞれのスタンドの顧客の減少分は、その交差点に行けば複数のガソリンスタンドがあるという認知度の向上で相殺される。競合する映画スタジオが1つの作品に共同出資する例もある。トヨタとPSAプジョー・シトロエンは小型乗用車を共同生産し、それぞれのブランド名で発売している。フィリップスとソニーはコンパクトディスクを共同開発した。
協力と競争の共存は、企業の提携にとどまらない。心理学者のエレイン・アーロンによると、人間関係には2つの基本的な衝動がある。すなわち、結びついて共通点を見つけようとする衝動と、順位を付けて階層的な立場を築こうとする衝動だ。
協力しすぎの弊害
協力しすぎる弊害もある。2012年のある研究によると、感じがいい―信頼できる、率直、利他的、素直、謙虚、優しい―と思われている男性は、あまり思われていない男性に比べて、仕事の成果が18%低かった。女性の場合は5.5%と、もう少し小さいが有意な差が見られた。別の研究によると、過剰な寛容さは、過剰な身勝手さと同じくらい貧弱な見返りしかない。
競争と協力の最適な緊張関係は、バランスとは異なる。「バランスは、静止や均衡、安定と同じ意味だ。つまり、変化がない」と、フランク・アサロは書いている。創造性の研究で知られるアルフォンソ・モンツォーリは次のように指摘する。「無秩序を除外した秩序を重んじるシステムは、硬直した同質の均衡を保つシステムになり、変化の可能性さえない」
19. 「誰だって力を手に入れたいさ」――明確な力と流動的な力
敏感な階層関係への秩序化
「2人の人間がじっとしていられるのは30分が限界だ。どちらか1人が、もう1人より優れているという証を手にする」
リチャード・コニフは著書『重役室のサル』(光文社)で「30分もかからない」と指摘している。スタンフォード大学で行われたある実験では、大学1年生の男子グループに課題を与えたところ、15分以内に自分達を階層分けした。わずか5歳の子供でもすぐに社会的な順番をつけ合い、その上下関係は驚くほど持続した。
権力関係のペア
スティーブ・ジョブズとジョナサン・アイブ
ジョージ・バランシンとスザンヌ・ファレル
トレイ・パーカーとマット・ストーン
ジェームズ・ワトソンとフランシス・クリック
権力の利点
・衝突が起きない
権力の存在が明確であることの主な利点は、衝突が起きないことだ。「ヒエラルキーにおけるパートナーの位置関係が競争によって決まる場合、冷えラルハーの構造を明確にすれば、将来のもめごとをなくせる」と、霊長類学者のフランス・ドゥ・ヴァールは言う。「階層の下にいる人々は上へ上へ昇りたいところだが、彼らが理想ではないが次善と思える位置に落ち着けば、平和が訪れる。ヒエラルキー内でお互いの位置を頻繁に確認していると、上に立つボスは、実利良く講師で地位を固める必要がなくなる。
クリエイティブなパートナーシップでも権力の格差は自然に生じる。強い権力を持つ人は、権力に伴う思考状態へと簡単に切り替わる。
権力を持っている人は持っていない人に比べて、よくしゃべり、相手の話をさえぎって、からかうようなことを言い、すぐに争い毎に加わりやすいとされる。
権力を持つ人の認知能力の傾向
自分に権力があると思っている人は、他人をステレオタイプに当てはめて評価しがちだ。たとえば、地位の高い教授が部下を評価すると、部下が上司である教授を評価する場合より正確性に欠ける。
大学の地位の高い教授と低い教授に同僚の評価をさせた。すると、階層の下から見上げる人のほうが、自分の上で起こっていることがはるかに明確に見えていた。きょうだいに関するいくつかの研究では、他人の意図や考えを理解する能力は弟や妹のほうが高かった。また、スタンフォード大学の心理学者デボラ・グルーエンフェルドが米最高裁判所の判決1000件以上を調べたところ、少数意見を支持した判事のほうが、意見書に細かいニュアンスが多く盛り込まれる傾向が見られた。 権力のある人は見返りの可能性に注意を払い、権力がない人はリスクの可能性に注意を払う
20. 「オーヴとやり合うのが好きなんだ」――対立
「礼儀正しさ」は真の協力を葬り去る。
不幸すぎると喧嘩にならない
結婚と軽蔑
結婚について研究しているジョン・ゴッドマンによると、否定的な言葉1つにつき5つの肯定的な言葉を交わす夫婦は長続きする。コンサルタントのマーシャル・ロサダと経営学者のエミリー・ヒーフィが仕事のチーム内で肯定的な言葉と否定的な発言を軽量化したところ、パフォーマンスが高いチームは、否定的な発言1回につき肯定的な発言が約6回あった。パフォーマンスが中程度のチームは、否定的な発言1回につき肯定的な発言が2回。パフォーマンスが低いチームは肯定的な発言が1回につき否定的な発言が3回だった。
ゴッドマンのある研究では、結婚した当初に喧嘩が少ないカップルの方が、喧嘩が多いカップルより結婚生活が生活だと答えた。しかし、3年後に再調査したところ、喧嘩が少ないカップルのほうが離婚したか離婚を考えているケースがはるかに多く、喧嘩が多いカップルはぶつかり合いながらも、ともに問題を乗り越える傾向が強かった。
ゴッドマンによれば、対立と軽蔑を区別することが重要だ。対立は雨のようなもので、家の骨組みには問題がなく、庭には恵みになる。一方で軽蔑は、家の基礎をむしばむシロアリだ。
21. アルファとベータ――ヒッチコックのパラドクス
ヒッチコックが求めていた女優
まっさらな白紙で、熱に溢れ、とにかく従順な女性―まさにヒッチコックが求めていたものだ。「私は彼女のあらゆる表情をコントロールした。私が指示したこと以外は、いっさいさせなかった。すべて私がコントロールしていたのだ。へドロンが何を着て、何を食べ、だとと会うかも指図するようになった。彼女の全てを監視するため、スタッフに尾行させた。
これがヒッチコックのやり方だった。『めまい』にキム・ノヴァクを起用したときは、彼女を自宅に招き、あらゆる話をした―ただし、彼女が知らない話題ばかりを選んで。「その非の夕方には、彼女はヒッチコックの望むとおりになっていた」と、『めまい』のプロデューサーは振り返る。「素直で、服従的で、困惑している女優になっていた」
「アルファの下で働くには、精神的でタフでなければならない」と、エグゼクティブ・コーチのエディ・アーランドソンは言う。「ただし、アルファは相手を支配したいと思うのと同じくらい、効率的に仕事をしたいと思っている。反論されれば腹を立てるかもしれないが、彼らは反論を必要としている」
22. 「マッカートニー・レノンはどうかな?」――権力のダンス
重要なのは、2人がとてつもない攻撃的なエネルギーを創造的な作品のなかに吐き出せるかどうかだ。そこが、対立によってうまく機能するペアと、対立に苦しむばかりのペアの決定的な違いでもある。緊張を飼い慣らすように、2人の間に存在する敵意を作品に変えて、より付会親密さと創造性の源に変える。
第6部 中断
23. 「こんな状況はありえない」――揺さぶり
バンドはメンバーの誰より大きな存在じゃないか
チームの言い換え、バンド
24. 成功のパラドクス――くさび
25. 修復不能――レノン・マッカートニーの別離
26. 終わりのないゲーム――レノン・マッカートニーは決裂したのか?
パートナーシップの終わりがこれほどあいまいな理由のひとつは、本書が見てきたようなクリエイティブなパートナーシップの場合、2人の関係から抜け出す決定的な方法がないからだ。他人と創造的な仕事をすることは、共同名義で銀行預金を開設するようなものだ。2人がそれぞれエネルギーや時間、創造的な意欲を貯金するが、どちらか1人だけで払い戻しを請求することはできない。
エピローグ バートン・フィンク、スタンダード・ホテルにて
謝辞、訳者あとがき、参考文献、原注、人物索引